なんとなくヤモリが棲みついているなあと思っていた。タイに戻ってきたら、ちょっと部屋の様子が違っていたからだ。
いつも決まって鏡台の後ろでチチチチチなんて鳴く。今までヤモリが部屋を通り過ぎることはあっても、居座ることはなかった。それなのに、この声だけは毎晩、毎朝同じ場所で聞こえてきた。卵が孵って子どもが隠れているのかと想像してちょっとドキドキ、ビクビクしていた。
そいつがこの頃顔を出す。壁や天井、床を歩き回る。10センチはあるやつ。いつになっても外に出て行く気配がなく、私の顔色を伺っては散歩している。こっちはこっちで、ドアの隙間にはさまないか、踏みつけないかハラハラしている。シンガポールにいた時、ヤモリがドアの隙間で押し花状態になっていたのをよく見かけたからだ。ああ、今も顔をあげて私を見ている。
できることなら住んでほしくない。嫌いではないけど。でもまあ、一緒に住んでもいい。でもお願いだから、時々ペタッと大きな音をたてて天井から地べたに落ちないでほしい。夜、ウトウトしかけた時にこれは心臓にこたえる。バクバク鼓動がなり、眠れなくなる。顔に落ちたらどうしようって。それにあんたも体が痛いだろうが。
それから、枕をめがけてフンをするのも止めてくれ。もよおした時、たまたま枕上の天井にいたんだろうけどさ、一緒に住むならもうちょっと遠慮してほしい。
追記:これを書いた5分後に頭に落っこちてきた。今夜は眠れない。