火星が南東の空に現れるという言葉を思い出して、一昨日夜空を見上げていた。そしたら友達のお母さんに“そんなもん見てどうする”という目で見られた。
それなのに今夜遅く、突然お母さんが私を呼んだ。「あれに見えるは火星でないか?」と興奮している。なんだ、お母さんだって興味あるんじゃない、ねえ。
“たぶんあれが火星だろう”と思われる星は、オレンジ色をしていて、ランプの光のように輝いていた。2人で暗闇に立ってしばらく見ていると、大家さんの所にいるミャンマー人のお手伝いさん(23)が出てきた。
3人で空を見上げていると、お母さんとお手伝いさんが「今度はいつ見られるのかねえ」と話し出した。私が少ない知識をふりしぼり、「もう数百年はこんな近くで見られないらしいよ」と答えた。するとお手伝いさん、「これはすごい珍しいことなんだね。じゃあ祈ったほうがいいね」と真剣な眼差しで星を見つめる。私も星を見ながら、何を祈ろうかなあ、なんて考えてみる。
そしてふと横を見ると、お母さんもお手伝いさんもなんと道路にぺたりと座り込んでいる! 両手を合わせて、しっかりと星を見つめ、口の中でモゴモゴと何か唱えている。
果樹園で足腰痛めながら働いても借金が返せないお母さん。16歳でタイに渡り、3年に1回しか故郷に帰れないお手伝いさん。2人の願いが火星に届くといいな、本当に。