お隣りのワイルン

「おと・な・り」という映画がある。
花屋でバイトする女性と、カメラマンとして活躍する男性が隣りに住んでいる。
古いアパートなので足音やドアを開ける音、
フランス語を練習する声や歌を口ずさむ声が壁を通して聞こえてくる。
そんな日常の音にお互い親近感を持ち始め、
彼女が異性に傷つけられ泣いている時に
壁ごしに男性が歌を口ずさんで慰めてあげる。(たぶん)
温かい空気が流れる映画だ。

うちのアパートは新しいけど、
壁が響くので同じようにいろいろな音が聞こえてくる。
咳やテレビの音、話声などが。
でも、うちの「おと・な・り」は違う。
ワイルン(若者・ティーンエイジャー)の男性。
「ユーフー♪」
と大きな裏声で時々歌い出す。
特にトイレはエコーがききお気に入りの場所のようで、
声が一段と大きくなる。
陽気なのはいいし、歌うのは自由だ。
でも今、夜中だよ。

どこかのパブでギターを演奏しているのか
ギターも時々練習する。
とても練習熱心なので、3時間、4時間と。
そして大声で歌う。
たまにテーブルを叩いてドラムも打つ。
ワイルンの友達もひっきりなしに出入りして、
皆でカラオケのような合唱が始まる。
バイト仲間だろうか。
楽しそうだ。
でも、日中ずっとでなくてもいいんじゃない。
夜中2時3時は寝ようよ。

夜遅いのに朝8時頃には出ていくので大学生だろうか。
このパワーがあるのは若者の証拠。
私も二日酔いで授業に出たことがある。
ワイルンだから仕方ないとは思う。
騒ぐのは若者の特権かもしれない。
そのうち飽きるだろうし、
彼女ができればまた変わるだろう。

…といろいろと自分を納得させようと思うけど、
でも、やっぱりうるさいよ、君たち。
だまれー!

ーと思っていたら、
数日前、散々友達と部屋で騒いだ後、
外に遊びに行って戻ってきた。
そしたら、
ウウウ……
と低い声がする。
1人でテレビでも見て笑っているのかと思ったら、
ウーッ、ウッウウ…ウーッ
と泣いていた。
しばらく泣いている。
どうした?
失恋?
誰かが亡くなった?
オーディションに落っこった?

ユーフー♪
まさか映画のように歌を口ずさむなんてことはしない。

バタン
夜中過ぎにまた外出して行った。
友達に会いに行ったのだろうか。
夜中に出歩くことは珍しくない。

そしたらまた最近、ギターを弾き始めた。
音楽が癒しになるならまあいいだろう。
弱いところを見せられると人間優しくしたくなる。
ジャンジャンジャジャーン
ユーフー♪
ジャジャンジャーン

やっぱりうるさいかも。

投稿を作成しました 1993

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