歴史に刻む人形劇を演じる

ステージ
♪リーリリリーラーラ
ティークイボークワーハックガン♪
サンデーマーケットを歩いていると、
喧噪の中から柔らかいラーンナーのメロディーが流れてくる。
その音を探してみると、小さな舞台の上で人形劇が繰り広げられている。
人形の華やかな衣装、繊細なしぐさを見て、はっと息をのんで立ち止まる歩行者も多い。
人形の動きもさることながら、
それを操るカップルの目つきや動作も同じぐらい観客を惹きつける魅力があり、
人形と生身の人間にうっとりしてしまう。

ジョーさんナーさん
人形が愛を語り合えば、カップルも愛しい表情をし、
人形が離れ離れになって寂しく胸を痛めると2人もとても辛そうな顔をする。
まるで2組のラブストーリーを観ているようで、
北部弁が分からなくてもぐんぐん4人の世界に引き込まれていく。

ジョーさん(左)とナーさん(右)
この人形劇を演じているのは、パーサゴンさん(ジョー:36歳)と
奥さんのサップタウィー(ナー:35歳)さん。
サンデーマーケットに簡易舞台を設け、
「フンチャーンフォーン」という人形劇を演じて3年目になる。
その前はランプを国内外に販売する仕事をしていたというが、
なぜまったく違う分野の人形劇をすることになったのだろうか。

楽器を演奏するジョーさん
「誰にでも実力・可能性がある。ただそれを引き出し、使うかどうかは自分次第だ」
そのような国王のお言葉に感銘を受け、自分たちのしたいこと、自分たちにしかできないことをしようと決心したという。
どうせやるなら自分たちが死んでも受け継がれるもの、何か後世に残ることをしたいと考えた時、ランプは消えて、人形劇が誕生した。

衣装は全部手作り
では、どうして人形劇なのだろうか? 経験はまったくない。
「チェンマイが大好きだから、チェンマイ、ラーンナーの文化を保存したいと思いました。自分たちの文化を見せるには、人形劇が最適だと感じたのです」
ナーさんは語る。
ジョーさんもナーさんも出身は違うが、ずっとチェンマイに住んでいて気持ちはチェンマイ人だと言う。
そんな好きなチェンマイの衣装や音楽、文学、風習といったラーンナーの文化を人形劇にしたらすべて見せられるのではないかと考えた。
人形に着せる衣装、髪型、アクセサリー、踊り、音楽、物語など、ラーンナーの伝統・文化が舞台で1つになるからだ。  
そうと決まればあとは自分の可能性を信じて動くだけ。
2人とも人形劇は未知の世界だから、手探りで始めた。
人形、衣装、ストーリー、舞台設定など1つずつ自分たちで試行錯誤しながら仕上げていった。
現在舞台で演じている人形劇は全部2人の手作りで、外注しているものは何1つない。
人形を形成、髪の毛をつけ、顔を描くのも自分たち。
シルクの衣装に自ら1個1個ビーズを縫いつけ、その時代のデザインに仕立てる。
物語は昔チェンマイであった実話を使っているが、それを舞台用に書き換えるのも2人。
音楽はナーさんが作詞、ジョーさんが作曲し、ラーンナーの弦楽器、サロー、スン、ピンピヤが必要になればジョーさんが練習。
歌うのも2人だし、録音も家でやる(犬を8匹飼っている中で!)という正真正銘の手作り人形劇だ。

1本1本の指を動かす工夫腰で支える工夫ビーズは1つ1つ自分でつける
演じる時も2人だけなので、人形には様々な工夫をしてある。
例えば、自分の腰に大きなベルトのようなものを巻いて人形を支えたり、指にはめたリングに紐をつけて、人形の指を1本1本動かしたり、人形の頭に棒をつけて移動させたりして、操りやすくしてある。

フンチャーンフォーン

ジョーさんとナーさんが演じる「フンチャーンフォーン」というのは昔からあったものではなく、
自分たちで生み出した人形劇だ。
2人が演じる物語は「ジャオノーイ」と「プラオンペン」で、王子とチェンマイ王女の恋などの実話をもとにしている。
つい最近はシャン族の「ギンガラー」という舞も加えた。
これは、今年の5月に行われる「プラハ国際人形劇祭」(World Festival Of Puppet Art Prague)を意識してのことだ。
コンテストに参加すべく、もうすでにDVDは送ってあり、今は審査待ちだと言う。
実は去年、この選考に通り、チェコ・プラハで5月に開かれた「第13回プラハ国際人形劇祭」に参加した。
世界各国から選ばれた30近いグループが集まり、ジョーさんとナーさんは”Princess of Love″(ジャオノーイ)を2人だけで30分演じた。
チェンマイの王子とミャンマーの王女が恋に落ちるが、政治的理由で離れ離れにならなくてはいけないという物語で、
見事?Award for Poetic Interpretation″という賞を受賞。タイに栄光をもたらした。
帰国してからは、バンコクの様々なところで招待され演技し、王様の誕生日にはバンコク国立劇場で(残念ながら王様は不在)、王妃様の誕生日にも披露する機会に恵まれ、自分たちが生み出した「フンチャーンフォーン」が少しずつタイ人に知られるようになってきた。
「『ラマ9世(プミポン国王)の時代に?フンチャーンフォーン″がうまれた』という言葉が残されることが夢であり目標」
とジョーさんとナーさんは語るが、確実に夢を現実に近づけているし、国王のお言葉通り自分たちの可能性を最大にいかしている。

会場と触れ合う
ただ、残念なことは、地元チェンマイからはほとんどお呼びがこないらしく、パフォーマンスをするのはサンデーマーケットのみ。
それでも前向きで、「サンデーマーケットの長所は、様々な人に観てもらえること」と言う。劇場で入場料をとると一部の人しか来ないが、マーケットだと通りすがりの人が観て興味を持ってくれる可能性があるからだ。
そしてそういう人たちが自分たちの人形劇を気に入ってくれ、50サターンでも1バーツでもおいていってくれるのが嬉しいという。
「もっともっと多くのチェンマイの人に知ってもらいたい」
と話す2人の夢は、将来「フンチャーンフォーン」に誰でも気軽に触れられる博物館と劇場を作ること。
もちろん入場無料。
20年後、30年後に2人の可能性と「フンチャーンフォーン」がどこまで広がっているか楽しみだ。

DVD
【場所】3人の王様像近く(像を背にして、広場の一番右隅の向かい側。Prapokkao Road)
【時間】毎週日曜17:00?23:00(不定休)
プラハで賞をとった?Princess of Love″はDVDで観ることができる。
DVD300B、CD20B

(チェンマイ現地情報誌「ちゃ?お」の掲載記事より)

投稿を作成しました 1993

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