顔見知り

ドイステープ寺院 早朝バイクを飛ばしてドイステープへ向かった。12キロほどの山道をぐんぐんのぼっていく。空気がひんやりして気持ちいい。ドイステープは早朝にもかかわらず、大勢の観光客や参拝客で賑わっていた。
 今回の目的はビデオ撮影だ。仏塔を撮りながら後ずさりをすると、誰かにぶつかった。振り向くと、カメラをかまえた30代後半ぐらいの男性が立っていた。謝って、またレンズを覗き込んだ。
「今日は書くほうじゃないんだ」
 と背後で聞こえたので、「うん」と機械的に答える。
 ん? でもまてよ、この人なんで私が物書きということを知っているんだ? ビデオを止めて、振り向くと、彼はニコニコしている。しているけど、見覚えがない。彼はいろいろと説明してくれるけど、あまり理解できない。
「全然覚えていないです……」
 と軽くおしゃべりをした後、またレンズを覗く。その途端に思い出した。ああ、そうだ、コピー屋のオーナーだ。タイ人には珍しく、モノクロ・フィルムで撮影し、自分で現像・プリントしたものをお店の壁に貼っていた。そうだ、彼だ。
「思い出した!」
 振り向いて彼に言い、また世間話をした。
 チェンマイにいると、意外と知り合いに会う確率が高い。市場でもレストランでも喫茶店でも、顔見知りにあう。それが良くも悪くも面白いところだと思う。


投稿を作成しました 1993

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