飛行機から落ちた私

昨日島を去るのが寂しいなと思っていたせいか、サムイの精霊がいたずらをした。
だからなぜか私はまだサムイにいる。
チェンマイ行きの便は朝1番。
家を5時半に出ないと間に合わない。
暗闇の中起き出して、カバンとココナツごはんを持って外でタクシーを待った。
空を見上げ、サムイの空気をいっぱい吸い込んで、景色を目に焼き付けた。

しかし、しかし、感傷に浸っている暇もなくなってきた。
待てど暮せど予約したタクシーが来ない。
空はあけてきてコケコッコーとニワトリまで鳴き出した。
時計を見ると既に針は6時半をさしている。
はあ、もう間に合わない。
チェンマイ行きは1日1便しかないのに。

とうとう私は飛行機に乗り遅れてしまった。
今まで何十回と飛行機に乗っていてキワドイ思いをしたことはあっても、
こんなことは初めて。

また、カバンとココナツごはんを家に運び、タクシー会社に文句を言いに行った。
何しろ前金を払っている。
店のおじさんは素直にお金を返してくれたけど、
「もう1日サムイにいられるね」
とわけの分からないことを言っている。
暇人の私だからよかったものの、仕事がある人だったら大変だ。

そんなわけで1日あいたので、またバンガローへ。
スタッフの人はびっくり!
肝っ玉母ちゃんとは抱き合って早すぎる再会を喜びあった。
「どうしたの?」
「飛行機から落ちちゃったよ」
「寝坊?」
「いや」と。
厨房にスタッフが入ってきて私の顔を見る度に
「あれ、今日じゃなかったの?」「飛行機から落ちちゃってねえ」って。

タイ語で「飛行機に乗り遅れる」は「トック(落ちる)・クルアンビン(飛行機)」。
「落ちちゃったよ、もう?!」という私にすかさず友人は
「痛かった?」って。

こんな愉快な仲間達に囲まれてまたサムイでの最後の日を過ごした。
帰り際に「明日本当に帰るんでしょ? 飛行機から落ちない?」
って何度も聞かれた。
私でなく飛行機が落ちないといいけど。

投稿を作成しました 1995

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