朝6時過ぎ。ジョギングに行くため1階に下りると、ちょうどお母さんも起きてきた。
なまずを見ようと恐る恐るバケツを覗く。
白いお腹が3つ浮かんでいた。
ーということもなく、無事生きていた。よかった、よかった。
今度は大なまずはどうかとお母さんと一緒にイスやらカゴを持ち上げる。ドキドキだ。
するとなんと消えていた。
いないのだ。
隙間から逃げたかと思い、干からびた姿を想像しながら辺りを探す。
でもいない。
猫に食べられたか?
だけど辺りに乱れた様子なし。
第一、逃げるにも食べられるにも、そんな大きな隙間はない。
盗まれたか? 考えられるのはそれしかない。
夜中にこっそり持っていったのだろう。
それにしても隅のほうに置いてあったし、
はたから見るとただカゴが積んであるようにしか見えない。
それもアパートの敷地内、友達の部屋の前だ。
ふと歩いて何だろうと思い、イスやバケツ、カゴを持ち上げ、
中を覗く人はいるのだろうか。
覗いたら大なまずがいた。
「しめた!」とどこかからビニール袋を持ってきて
暴れるなまずを素手で捕まえて持って行ったのだろうか。
それももとのようにカゴやバケツを置いて。
そうだったら友達が音で気付きそうなもんだけど。
でも、なんで小なまずは持っていかないんだ?
疑問はいっぱい。
でも私たちは盗まれたとしか考えるしかない。
それなのにお母さん、ぽつりとこんなことを言うんだ。
「あれは幽霊なまずだ」って。
だから自分から消えたんだって。
友達は田舎育ちだけど、都会に長いので一笑したけど、
田舎のほうではまだこの迷信が信じられていると言う。
大きい魚や年老いた魚は不思議な力が備わっているので、逃がしたほうがいいという。
そういう魚は家の桶に蓋をして入れていても、次の朝見ると消えているという。
そしてそれを釣った人は原因不明の病気になって死んでしまうらしい。
これを聞いて背筋がぞぞぞ。
釣ってはいないものの、なんか説得力がある。
冷蔵庫に入れた大なまずが消えたらもっと怖いけど。
自然と近い生活をしている人って
きっと説明不可能なことをいっぱい体験していると思う。
だから私は信じてしまう。
いずれにしてもカレーにならないでよかった。
でも本当になまずはどこへ行ってしまったんだろう?