おじいちゃん

 とある少年のおじいちゃんは孫が可愛くて可愛くて仕方がない。溢れんばかりの愛情をそそぐ。少年もおじいちゃんのことが大好きだ。でも、少年の悩みはおじいちゃんの酒癖が悪いこと。普段は穏やかで無口なおじいちゃんだが、一旦お酒を飲むと、人にあたるのだ。さんざん大きな声で文句を言ったり、かっとくると人を殴る。それで少年のお父さんもおばあちゃんも顔をあざだらけにすることがある。そんな姿を物心がつく時から少年は見ている。それでも少年にとっては大好きなおじいちゃん。お酒さえ飲まなければいい。そしてそれを止められるのは自分だけということを自然に覚えた。
 おじいちゃんは普段、皆の食事を作る。そして、その後ふらっと自転車やバイクに乗ってどこかへ行く。近所にある屋台のいっぱい飲み屋で、コップ1・2杯飲んでくる。飲んでしまうと、1人陽気になるか、機嫌悪く八つ当たりする。
 解決法は、とにかくおじいちゃんにお酒を飲ませないこと。だから少年はおじいちゃんがいなくなることにとても敏感だ。バイクにまたがってどこかへ行こうとすると、すぐ部屋から出てきて、「おじいちゃん、どこへ行くの?」と阻止する。大好きな孫が止めると、おじいちゃんもしぶしぶ家に戻る。たまに、夜姿が見えないと「おじいちゃん、どこ?」と顔をゆがめて泣きそうになる。飲んだら、皆が悲しむのを知っているからだ。皆を守りたいし、なによりおじいちゃんが好きだから。
 今日の夕方、おじいちゃんが自転車に乗って出かけたのを見逃した。皆に「おじいちゃん、いないよ。どこ?」と聞いた後、悲しい顔をして急いで自転車に乗って追いかけた。周りの家族が何を言ってもおじいちゃんは怒るだけなので、少年が自ら行くしかない。
 しばらくして2人で帰ってきた。おじいちゃんはお酒を飲む暇がなかったらしい。しょぼんとしていたけど、孫と仲良くお喋りしていた。それを家族が遠くから見守っている。

投稿を作成しました 1996

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